企画書の目的

「マーケティングリサーチの流れ」でも触れたように、企画書は、調査依頼者(クライアント)とリサーチャーとで共有する、リサーチの設計図となります。仮説構築までに検討したり、決定したことを整理して、どのような手順でリサーチを進めていくかをご説明いたします。
企画書作成で大事なことは、調査目的や課題を第一にすることです。様々な調査手法があるので、「どの調査手法を使うか」を考えがちですが、それより、「なぜ調査を実施するのか」や「どんなことを検証するのか」が重要です。目的や課題から離れた調査をすると、結果は単なるデータとなったり、クライアントにとって価値の低い情報となる可能性があります。
企画書を作成するということは、調査の目的やゴールを明確化して記述することに他なりません。記述する項目は、目的、手法、調査結果のまとめ方、調査期間(スケジュール)など、おおむね決まっています。実際に調査が始まると、思うように進まなかったり、予想外の結果を得ることがあります。また、沢山の調査結果から、どのように分析して、報告書にまとめるか迷うこともあります。そうした場合、優れた調査企画書があれば、「どこまで進捗しているか」「目的に沿った分析となっているか」を確かめることができます。
次から、企画書に記載する代表的な項目について説明します。調査手法によって、多少異なる部分もありますが、要素としてはほぼ盛り込まれる内容です。

調査タイトル

ここでのタイトルとは、リサーチ全体がわかる名称で、クライアントとのコミュニケーションやリリースのときに用いるものです。実査のときに回答者に提示するアンケートタイトル(例:あなた自身に関する調査)とは別物です。タイトルは、目的が一目でわかり、かつ、冗長にならない表現にします。

良くない例

  • 大学生1000人に尋ねた調査調査
  • タブレット利用者に関する調査

良い例

  • 大学生の企業ブランドイメージ把握調査
  • タブレット利用規模と利用状況調査

調査の背景、調査目的

背景は、調査実施に至った経緯・きっかけやリサーチャーによるクライアントの現状理解を記述します。事細かに述べる必要はありませんが、「なぜ、自分たち(リサーチャー)がリサーチを実施することになったか」を理解してもらいます。
調査目的では、マーケティング課題を解決するために、「リサーチで何を明らかにするか」を具体的に示します。例えば、「就活をしている大学生における、企業ブランドイメージ形成の要因を把握する」といった感じです。
さらに、目的を達するために結論として得たいことを記述します。上記の例でいえば、「就活生が企業と接触する情報源」「ブランドイメージに影響を与える企業活動」などです。

調査対象(母集団とサンプル抽出方法)

ここからは、調査を実施するための具体的な設計になります。この詳細設計を疎かにすると、調査結果がぼんやりし、課題を検証することができなくなります。
調査対象、すなわち調査ターゲットの設定は重要です。当然、調査目的に対応するセグメント(性別・年代・エリア等)を対象とするのですが、場合によっては比較対象として、調査目的に対応しないセグメント(競合会社ユーザー、非購入者等)を対象とすることがあります。
次に、対象人数を決めます。後述する分析軸を踏まえて、分析に耐えうるサンプルサイズを決めます。スクリーニング(※)を行う場合は、本調査の人数から逆算してサンプルサイズを決めます。また、サンプルサイズは調査費用に影響します。予算との兼ね合いを踏まえて調査対象を決めます。
※スクリーニング: 調査目的に適合した対象者に絞り込むための事前調査。例えば、本調査の対象が大学生ならば、年代で絞り込んでも就業者が含まれるので、スクリーニング調査で職業を尋ねて、学生を選んだ回答者のみ本調査に進ませます。
※※調査によっては、クライアントが保有する顧客リストや見込み客を対象者とすることがあります。

調査の実施方法

次に実施方法を考えます。調査目的と予算から、最適な方法を選びます。大きくは、インターネット調査、郵送調査などの定量調査、グループインタビュー、デプスインタビューなどの定性調査に分けられます。
定量調査は、一定ボリュームのサンプル数を集めることで、全体的な傾向を把握することができます。ただし、設問文と限られた選択肢で調査するため、得られる情報には限りがあります。例えば、ブランドイメージで「かわいい」を選んでも、それが具体的な対象物(人や商品など)を指しているのか、利用シーンや雰囲気からかわいいと感じているかまでを区別して測定できません。
一方、定性調査では、インタビューという対話を通じて調査を進めるため、調査ターゲットの心理を深く尋ねることが可能です。また、表情やしぐさから読み取ることもできます。ただし、サンプル数は少数であるため、情報の絶対ボリュームの面で劣ります。実際の調査では、定量と定性を組み合わせることがあります。
実施方法の選択は、調査費用と調査期間に影響を与えるため、クライアントとのすり合わせが必要です。
定量調査とは
定性調査とは

調査項目

調査目的に基づいて調査項目を考えます。いきなり設問文や選択肢を書き出すのではなく、調査目的を分解する形で、対象者から聴取したいことを箇条書きにします。調査仮説が複数あるのなら、一つ一つの仮説を検証するように項目を作ります。また、必要に応じて調査対象者をセグメントする設問、プロフィールを確認する設問も必要になります。
例えば、大学生に企業ブランドイメージを尋ねる場合でも、調査目的が就活生が抱くイメージ把握ならば、先に大学卒業後の進学意向を聴取して就業意向者を抽出できるような調査項目があるのが望ましくなります。
また、回答者の回答負荷を考慮することも必要です。設問数は、定量調査なら、全体で30問程度、多くても50-60問程度に抑えます。

集計で用いる分析軸、分析方法の計画

性別、年代、職業、居住地といった回答者属性、訪日回数、タブレット利用頻度、認知度などの行動・実態、満足度、購入意向、住まいに関する考え方といった価値観・意識などの軸があります。基本的には、調査目的や仮説に紐づき、調査項目で測定できなければなりません。
分析方法とは、複数の要素をまとめて解釈するための手法で、必要に応じて盛り込みます。例えば、対象者の属性ごとのブランドイメージをマッピングするためのコレスポンデンス分析、総合満足度の構造を様々な評価指標で説明するための回帰分析などがあります。分析軸や分析方法があると、実査が終わった後の分析の道筋がはっきりします。

成果物イメージ

リサーチのゴールは分析ではありません。クライアントが理解しやすいように可視化することが大切です。分析結果をどのような形で提示するか、レポートイメージを提示します。特に、前段にある分析方法(コレスポンデンス分析や回帰分析など)は、図表を提示しておくと、クライアントの理解を得やすくなります。
調査項目、分析軸と分析方法、及び成果物イメージが、リサーチの中身を形成する主要項目となります。料理でいえば、素材、調理、盛り付けにあてはまるかもしれません。これで、ようやくクライアントが調査目的に照らして意思決定ができる(賞味できる)ことになります。

調査の実施体制

ここでは、リサーチ会社だけでなく、クライアントのメンバー構成も記載します。一つのプロジェクトチームとして、どのような組織体制で調査を推進するかを明らかにします。メンバーの案内だけでなく、プロジェクトにおける役割も記述します。必要に応じて会議体を設けます。

調査期間(日程)、調査費用の見積もり

最後に、調査スケジュール、見積もりを提示します。スケジュールには、実査前に調査項目(調査票)の確定時期、実査期間、実査終了後の分析期間と報告タイミングを明記します。同時に、いつまでにクライアントと何を合意するのかを記述します。
見積もりには、企画設計、実査、集計・分析の各工程に業務内容ごとに見積もり金額を提示します。できる限り、単価×数量の形で計上します。

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