調査手法は、「定量調査」と「定性調査」に大きく分かれ、両調査には多くのバリエーションがあります。最近ではインターネット調査が進展し、定量調査・定性調査のどちらにも該当する新しい手法が増えており、調査会社によって異なる分類がされている場合もあります。

定量調査によって得られる結果は全体像を把握することに役立ち、定性調査で得られる結果は個々の生活者の声を拾い上げることに役立つように、両調査の機能は異なります。

市場や消費者のニーズや意識を探る「探索」なのか、消費者の購入・利用の状況を知る「実態把握」なのか、マーケティング施策の効果を検証する「効果測定」なのか、消費者の購入・利用の意思決定の要因を構造的に把握する「要因分析」なのか、等、調査目的ごとに選択するべき調査手法は異なります。また、マーケティング課題への最適解を得るために、複数の調査手法を組み合わせることが必要な場合もあります。

調査目的に対して最適な実施方法の選定は、それぞれの調査手法の特徴やメリット・デメリットを踏まえた上で、予算・スケジュールとのバランスを考慮して決定します。

定量調査

定量調査は、アンケートなどによって調査対象者の実態や評価に関するデータを数値や量によって測り、結果を統計学的に分析するものです。

定量調査の代表的な手法

1) ネットリサーチ

インターネットWEB上で実施するアンケート調査のことで、インターネット調査・WEB調査などとも呼ばれます。調査対象者にWEB上のアンケート画面へアクセスしてもらい回答を収集します。

メリット
  • 他の定量調査手法と比較して低コスト・短期間で実施が可能。
  • 広範なエリアを対象とした調査、調査対象者の抽出条件を詳細に設定して該当者のみに絞り込んだ調査、どちらも可能。
  • 回答内容による設問表示・分岐の制御によって、回答ミスを防ぐことが可能。
  • 写真・動画・WEBサイトなどをアンケート中に呈示することが可能。
デメリット
  • 回答者がインターネット利用者のみとなるため、特にインターネット利用格差があり得る高齢者・低所得者においては回答者に偏りがある。
  • 近年、調査対象者がアンケート回答時に利用するデバイスの主流はパソコンからスマートフォンに変化している。回答に時間を要したり、テキスト入力の手間を要する大規模なアンケートは調査対象者への負荷が懸念される。

2) 会場調査(CLT:セントラルロケーションテスト)

調査会社が用意した会場で、調査対象者に新製品・改良品やサービスのコンセプト、広告等についての評価してもらい、定量的なデータとして収集します。

メリット
  • 試飲・試食・試用を伴う評価や、試作パッケージの評価など、調査対象者に実際の体験を踏まえて回答してもらうことが短期間に実施可能。
  • 会場内で調査は完遂するので、開発中の新商品を扱う、機密性の高い調査を行なう場合に適している。
  • 会場に常駐する調査員が調査対象者の回答内容を確認し、不明な回答について深堀聴取をしたり、回答ミスの修正を促すことが可能。
デメリット
  • 調査対象者は会場で限られた時間内で評価をすることが求められ、日常生活と同じ環境や状況で試飲・試食・試用した結果として評価することは困難。
  • 試飲・試食・試用のためのサンプル、試作パッケージの事前準備が必要。

3) ホームユーステスト(HUT)

新製品・改良品を調査対象者の自宅に送付し、日常生活の中で一定期間、試飲・試食・試用してもらい、WEBもしくは紙アンケート等でその評価や感想を収集します。

メリット
  • 評価に一定の期間を要する製品・サービスの調査に適している。
  • 実際の生活環境で試飲・試食・試用をするので、よりリアルな消費者の実態を把握することができ、調査対象者から本音に近い評価を得ることが可能。
  • 日常生活の中でどのように試飲・試食・試用したか日記・写真などの記録をつけてもらい、定性的なデータを収集することも可能。
デメリット
  • 調査に一定期間を要するため、調査対象者の途中離脱が起こる可能性がある。
  • 調査対象者ごとに生活環境は異なるため、厳密に同一条件下で試飲・試食・試用をしてもらうことは難しい。
  • 試飲・試食・試用のためのサンプルを調査対象者に預け管理を一任するため、上市前の情報漏洩のリスクがある。対策として、調査に関する情報について家族以外への開示やSNSへの投稿をしないよう事前承諾を得る、調査終了後には速やかに全調査対象者からサンプルを回収を行なうといった体制を取ることが必要。

4) 郵送調査

調査対象者へのアンケートの送付、回答後のアンケートの回収を郵便で行います。

メリット
  • 設問数が多く、回答に時間を要するアンケートを実施する場合に適している。
  • アンケートを送付する際、資料や製品現物を同封することが可能。
  • ネットリサーチを避けたい場合(インターネット利用者の割合を測定する、上市前の製品・サービスの情報をWEBに載せたくない、調査対象者の名簿がありネットモニターを必要としない、など)に実施が可能。
  • ネットリサーチと組み合わせて、調査協力の依頼を郵送で行ない、アンケート実施はネットリサーチで実施するといった方法も可能。
デメリット
  • アンケートを発送するための調査対象者のリスト作成が必要。さらに、事前に調査協力を得ている場合であっても、回収(返送)率は2~3割程度と低くなることが一般的。
  • 調査対象者の回答期間を考慮する必要があるため、調査期間は一定期間を要する。また、アンケートの印刷や送付・回収の郵送費など費用もかかる。
  • ネットリサーチと比較して、スピード・コストパフォーマンスでは劣る。

5) 電話調査

調査員が調査対象者へ電話をかけて回答を得る調査手法です。

メリット
  • 会話をしながら質問をするので、調査対象者が質問内容を理解して回答しているか確認したり、不明な回答について深堀聴取をしたり、混み入った内容の質問をすることが可能。
  • 広範なエリアを対象に、低コスト・短期間で実施が可能。
デメリット
  • 電話でのやり取りとなるため、質問数が多く時間を要する調査には不適。
  • 近年は固定電話を持たない世帯が増加し、知らない相手からの着信は警戒される傾向にあることから、実施は少なくなっている。

6) 訪問調査

調査員が調査対象者の自宅を訪問して回答を得る調査手法です。調査員が対象者へ直接質問して回答を聞き取りながらアンケート用紙に書き込む「面接法」と、調査対象者にアンケートを預けて後日再訪して回収する「留置法」とがあります。

メリット
  • 調査対象者と直接対面するため、機密性の高い調査を実施することが可能。
  • 「面接法」の場合は資料や製品現物を呈示しながら評価や感想を聴取できる。
  • 不明な回答について深堀聴取をしたり、混み入った内容の質問をすることが可能。
デメリット
  • 調査員を事前にトレーニングするが必要。調査の際には人件費・移動に伴う経費がかかる。
  • 近年は共稼ぎ家庭の増加・防犯の観点から訪問調査を歓迎しない家庭が増え、実施は少なくなっている。

定性調査

定性調査は、インタビューや観察によって調査対象者の意見や行動を数値化できない言葉や写真・映像によって収集し、顕在的な意識・潜在的な意識・因果関係などを構造的に解釈するものです。

定性調査の代表的な手法

1) グループインタビュー(FGI:フォーカスグループインタビュー)

リサーチ課題を検証するために相応しい抽出条件を満たす調査対象者を複数人集め、モデレーター(司会)の進行のもと、座談会形式で回答・意見を得ながら各対象者の思考や行動を理解する調査手法です。

メリット
  • モデレーターと調査対象者、あるいは調査対象者どうしが対話をすることで相互に触発され、リサーチ課題について活発な議論が起き、複数の発言を得ることが可能。
  • 調査対象者の様子を実際に見ながらインタビューを行なうため、その態度・語調・表情などから、言葉で発される以上の“生の情報”を得ることが可能。
デメリット
  • モデレーターの技量や経験しだいで、調査対象者から得られる発言や議論の量・内容が左右される可能性がある。
  • 他対象者の反応に影響されて、回答・発言の内容が一貫性無く歪む場合がある。
  • 同時に複数人の調査対象者を集める必要があり、インタビュー開催日時の調整が難しい場合がある。
  • 調査結果はインタビュー参加者の回答であり、統計的なデータではないことを留意する必要がある。

2) デプスインタビュー(IDI:インデプスインタビュー)

リサーチ課題を検証するために相応しい抽出条件を満たす調査対象者とインタビュアーとが1対1の面談式で、個人の生活や意識・行動などについて踏み込んだ質問をしながら実施する調査手法です。
「デプス」の言葉通り、調査対象者から「深い」回答を聞き出して「深い」理解を得ることを目的としています。

メリット
  • インタビュアーが調査対象者へ質問を多角的に繰り返すことで、調査対象者自身が意識していない潜在的な心理や行動の理由について深堀して探ることが可能。
  • 1対1での対話なので、人前で話すことがためらわれるセンシティブな内容についても聴取が可能。
  • オンライン定性インタビューの実施も可能。居住地域や移動時間の制約が無く、調査対象者にアプローチすることが可能。
デメリット
  • 調査対象者が1人きりのため、インタビュアーの質問の仕方によっては発言が不活発になったり、バイヤスが生じる場合がある。
  • グループインタビューと比較して、スピード・コストパフォーマンスでは劣る。

3) エスノグラフィ調査(行動観察調査)

民俗学、文化人類学などで用いられている、フィールドワーク(現地調査)によって行動観察を行ない、その記録を残す研究手法をマーケティングリサーチに取り入れたものです。
事前に承諾を得た調査対象者の日常生活行動に同行したり、あるいは対象者に自分の行動を録画・ライブ中継してもらうなどして、対象者の意識的・無意識的な行動の癖や特徴を間近で観察し、時にその場でインタビューをしながら、行動の背景にある要因や価値観を探り出す調査手法です。

メリット
  • アンケートやインタビューによって言語化された回答だけでは捉えきることができない、生活者の意識・行動の実態を詳細に把握することが可能。
  • 生活者の潜在的なニーズや満足・不満を発見することができ、新商品開発のコンセプト構築・ブラッシュアップのためにターゲットのペルソナを描くことに適している。
デメリット
  • 調査員には、観察と同時に仮説構築・検証を行なうことができる技量と経験が要求される。
  • 事前承諾を得られる調査対象者の抽出、調査員や記録のための録画機器などの調達にコストと時間を要する。

4) 日記調査

日常生活の中で製品・サービスを利用した体験や感想を調査対象者の「日記」として、写真や文章で詳細に記録してもらう調査手法です。
調査期間は1週間~数ヶ月、回答頻度は毎日~週1回と、調査目的に応じて調査対象者の負荷がかからないように設定します。日記の記録方法は最近はインターネットのSNS・ブログと同様の機能を備えたプラットフォームを用いることが主流となっています。

メリット
  • 実際の利用体験について、その理由・経緯から使用感に至るまで日々の継続・変化を過去の記憶に頼らない形で取得することが可能。
デメリット
  • 調査に一定期間を要するため、調査対象者の途中離脱が起こる可能性がある。
  • 大量のデータ(写真・文章)を取得できるため、分析には時間を要する。

5) ユーザビリティテスト

新製品・サービスの想定ターゲットに該当する調査対象者に、その試作品を利用してもらい、利用中の行動の観察、評価・感想のヒアリングを行なうことで、問題点の有無や改良が必要な箇所を発見します。
WEBサイトの見やすさ、アプリの使い勝手などをテストする際によく用いられる調査手法です。

メリット
  • ターゲットとするユーザーと等しい属性・特徴を持った調査対象者から評価を得ることが可能。
  • 実際の使用場面を観察することができ、信頼性の高い結果が取得可能。対面式で実施の場合は、その場で深堀聴取をしたり、混み入った内容の質問をすることが可能。
デメリット
  • 想定ターゲットに該当する調査対象者の検討・抽出にコストと時間を要する場合がある。
  • 利用に耐える試作の事前準備が必要。

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