2025/06/14
確率的コンピュータというイノベーション【代表コラム】
2025/06/14
代表コラムです。やっぱりAI周りの話題は筆が進みますね。生成AIの登場に関してなんとなく私が感じている変化のポイントをまとめておきたいところです。
結論から書けば、コンピュータの動作原理が決定論から確率論に変化したということである。今時間が取れずに、ピックアップすることは今できないけど、少しづついろんな媒体にまとめられつつあることではある。もっともこれは少し深い話なのでこんないんちきコラムで書くべき話ではないかもしれない。しかしこれは極めて重要な論点であり最近いつも考え事をしているとこの事が頭に浮かんでしまうために成仏させるつもりで適当に書いてみようと思う。
まず前提知識としてコンピュータが2進数の世界でできているということはある程度聞いたことがあると思う。0と1、無と有と言ってもよいだろう。そのような離散的な数学の世界ではその中間はない。これを整数の世界と言っても良いかもしれない。それは実数の世界ではない。一方で、生物学的、社会的なホモサピエンスの生命を考えたときに、最も離散的とされる概念の一つが性別であるといってもよいだろう。しかし現実にはが、性別には「その他」選択肢があるという理解が倫理的に推奨されているし、実際の社会調査・アンケートでもそう求められることが増えてきた。
つまりどういうことかというと、数学的に明白に別れたロジックの世界というのは必ずしも我々の現実の世界では適応できないこともあるということである。理論上完全な直線が存在しないように。
殆どの場合実際のデータは確率的分布を見せる。その確率的分布が存在するということがいわゆる確率論であり統計学の基本だと思う。例えば初めて人に会うときに、その人がどのような身長で、体重で、肌の色か?といったような観察的な変数は常に確率的な平均と分散があるというのがこの世の習いであり、そういう現実のランダムネスを数学の世界に持ち込むときに便利な方便が確率論であり、その上にそびえ立つ統計学だということである。
別の言い方を試みるとすれば、ブランドAとBを選択するにあたり、伝統的・規範的・合理的な意思決定論では高いベネフィットを持つこと期待・予測されるブランドを選択するのがセオリーとされるが、最近の脳科学の成果では、選択しようとする前にシナプスやホルモンバランスによって「本能的に」決められているケースが有るというから恐ろしい。つまり、シナプスの接合やホルモンの割合は整数的というより実数的であるといえる。
このような人間の本能的判断は今のところAIの性質を考えると真似できるとも思えない。ある種の生命ならではの神秘ということができると思うが、そういった生命論的な様々なゆらぎを吸収するのが確率論だというふうに思っている。少しずれた例になるが、例えばよくあるWebサービスでSLA(Service Level Agreement)で99.9999%の稼働時間を保証します。というのは、「現実には何が起きるかわからない」中で、決定論的に高い安定性を求められている計算機システムに対するある種のエクスキューズなのであろう。
で、話を戻すと、そういう脳のシナプスを真似たとされるニューラルネットワーク構造を持つディープラーニングの仕組みでは、その膨大なノード、トークン間の接続可能性を「確率的」に持っている。
無論今日のノイマン型コンピュータの動作原理は決定論的である。しかし、その決定論的ハードウェアの上で、人類が工夫してできたディープラーニングネットワークは確率的に存在してる。そのような様々な事象の関係性を確率的に処理できるブレイクスルーが今日の生成AIの本質であり、それにより人類が知的と感じる様々な応答を可能にしているというところが最高に面白いと感じる。
ちなみに確率論的コンピュータというものはかねてから研究されている分野で最近だと東北大学の深見教授のグループで大変興味深い研究が行われている。ことは付記しておきたい。
製造容易性に優れた確率論的コンピュータを開発 ─半… | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-
確率的コンピュータ(アルゴリズム)としての生成AIの性質は、おそらく我々人間と自然言語でのやり取り・インターフェースを実現したという驚くべき特徴を含めて、人間のコンピュータに対する考え方を大きく変える要素であると思う。
長くなったので続きはまたそのうち書きたい