時代は「所有」から「利用」へと大きく変化している。
「仕事場」という働く人なら誰しも必要とする装置を共有する、コワーキングスペース(Co-Working Space)がはじめて登場したのは2006年のシリコンバレーで、Citizen-Spaceがその発祥とされている。それから12年経過して、今で日本でもはほぼすべての大手不動産会社がコワーキングスペース事業を展開するほどの普及を見せている。

コワーキングスペースはそれまではレンタルオフィスと呼ばれていた業態に近いが、単なるスペース提供にとどまらず、利用者のコミュニティ性や関係性を構築するための仕掛けを有している点が違いとしてあげられるだろう。その時代的背景には、Web開発・デザイン業務の社会的ニーズを満たすための大量のフリーランスの発生が無視できない。そのフリーランス自体も決して新しいものではないが、「勤労」そのものがサラリーマン的に専有される時代から、より柔軟な関係性の中で取引、共有される形態へと変化しつつあると言っても良い。
一方、断片化されたワーカーたちにとって、コワーキングスペースはサラリーマン時代には見えなかった職場のコミュニティ性、意識しなかった環境の重要性を教えてくれる貴重な機会でもあったといえるだろう。それは私自身がほぼ事実上フリーのエンジニアになってみたときに体験的に感じたことでもある。エンジニアやデザイナーのように、すべての業務成果がデジタルデータとして蓄積される時代であったとしても、人は必ずしもコンピュータとネットワークのみで仕事が進む人ばかりとは限らないのである。
一方で、時代はそこから一歩進み「居住環境」の共有化、所有から利用へという変化を見せはじめている。昨年11月には個人的な友人でもある佐別当さんにより、多拠点Co-Livingサービスが定額で利用できるという、ADDressがリリースされ、業界的に注目されている。
定額で全国住み放題の多拠点コリビング(co-living)サービスを展開する「株式会社アドレス」を設立。|株式会社アドレスのプレスリリース
また、「自分らしくを、もっと自由に。」をテーマとして、居住にまつわる様々な社会問題の解消も視野に入れつつ、様々な身近な制約から開放されたより自由なライフスタイルを提案するLiving Anywhereという団体も注目である。丁度1月28日から会津磐梯で開催される予定で、私も日程のやりくりがついたので少しだけ参加して見る予定である。この手の誰が来るのよくわからないイベントは私の好きなイベントなので楽しみだ。 Manifesto | 自分らしくを、もっと自由に。Living Anywhere
Living Anywhere Week in 会津磐梯 Vol.2 冬の磐梯山編
ちょっと大げさな話になるが、農耕をきっかけに定住した人類にとって、都市工業化とともに都市定住が一般的でローコストであった。しかし、今日の情報化社会の文脈では、知的生産に必要なのはインスピレーションとモチベーションとネットワークであり、必ずしも地理的な意味での定着はむしろ知的生産性を阻害される可能性すらある。
そういう文脈で考えれば、living Anywhereの理念のような、日常と非日常との混在こそが新しい時代の知的ワーカーの生活スタイルになる可能性は十分にある。そして、これまで伝統的に非日常性を提供するサービスとしての代表的なものは「旅」であった。旅に出れば誰しも普段会わない土地と人に出会うことで新しい視点を獲得することができる。そういった精神の更新性が旅の本質であるとすれば、「旅するように暮らす」という考え方はある種の「旅」の進化系であり、すべての観光関係者にとって無視できないテーマであるといえるのではないだろうか。

佐藤哲也