“ひとりでも多くの人たちが《働く喜び》を膨らませ、《働く喜び》の輪が、新たな活力を生み出している社会を創りたい” これはリクルートキャリアのビジョン=目指したい未来です。

しかし、どうすれば《働く喜び》を増やすことができるのでしょうか?

この難題を解明するために、リクルートキャリアの広報部を中心に調査研究プロジェクトが組成され、私は2014年にこの調査プロジェクトに参画した経緯もあり、今回の調査設計・分析にも関わる機会をいただきました。

その分析結果がリクルートキャリアのビジョン・ミッションのページに掲載されましたので、主要な結果をご紹介いたします。

リクルートキャリアのビジョン・ミッション(働く喜び調査 7年間の報告書 参照)

2014年の調査研究結果を基に、働く喜びの構造仮説をさらに進化すべく、定点で分析する主要指標は残し、それ以外の内容はゼロベースでプロジェクトメンバーが何度もディスカッションを重ねて構造仮説と新たに検証したいテーマを設定して調査設計をしました。

■2014年度の調査で発見した働く喜び構造
2014年度の調査で発見した働く喜び構造

今回の調査にあたって明らかにしたかったテーマは多くありましたが、個人的に注目していたのは以下でした。
1)働く喜びを感じることが、自分の内外にどのような影響(結果)をもたらすのか(働く喜びと、個人のパフォーマンス、職場のパフォーマンスの関係は?)
2)働く喜びを感じられない(下げる)要因は何か(生活上の衛生要因と、職場の心理的安全性、信頼関係と、働く喜びの関係は?)
3)「持ち味がいかされている」のはどのような状態なのか(職場で「持ち味」を発揮するためには、「個人」「上司」「職場」において特にどのような条件が揃うことが必要なのか?)

これらに対する分析結果の詳細は是非レポートを見ていただければと思いますが、今回の分析の核となっているのは、上記(2)の課題を包括しているReport⑤ ‘「衛生要因のみならず、「職場環境」「自分の持ち味の共有・発揮」「働く喜びは自分で増やせる」という主体性が、働く喜びの重要な要因’ の部分です。

この分析では働く喜びに対する説明力を検討するため、第1階層から第4階層の階層的重回帰分析を行っています。階層的重回帰分析とは、階層ごとに関心のある変数を投入していき、説明力が統計的に有意に増加することを検定することでその変数の重要性を分析する手法で、心理学系の研究でよく利用されています。

この分析手法により、これまでも重要であるとされていた「必要な収入を得ている」かどうか、「雇用不安がない」かどうか、「健康である」かどうか、という衛生要因(第1階層)以外に、「お互いの考えの違いに対して好意的関心を持つ人が多い職場か」「仕事中に笑いが起こるような職場か」といった職場環境(第2階層)や、自分の持ち味を同僚や上司と共有したり、持ち味を発揮できているかどうか(第3階層)、そして、そもそも「働く喜びは自分で増やせる」と思えているかどうかが(第4階層)、働く喜びの実感につながる重要な要素であることがわかりました。

階層が重なるにつれて、「働く喜び」をよりよく説明していることがわかります。(働く喜びの説明力が、.232→.322→.456→.484と上昇。このモデルでは4つの要素が「働く喜び」の約48%を構成していると言えます)。

「収入」「雇用不安なし」「健康」という衛生要因だけに目を向けるのではなく、コントローラブルな要素である職場環境や、自分の持ち味を発揮できているかどうか、「働く喜びは自分で増やせる」という主体的な思考を持つことが、実際に働く喜びの実感に繋がるのだと言えそうです。

上記のような単年度での分析結果だけでなく、2013年から7年間の時系列分析からも、働き方への意識の変遷など、興味深い分析結果が掲載されていますので是非ご覧下さい。

今回の働く喜び調査設計・分析プロジェクトメンバーは様々なバックグラウンドを持った6名です(最終ページ参照)。遠方の方もいましたのでコロナ禍の前からオンラインでの参加ありでプロジェクトが進みました。各メンバーがそれぞれ研究テーマを持ち、その研究結果を基に活発な議論が行われる中でとても刺激を受けましたし、様々な設計・分析アプローチが持ち込まれたことで新しい知見を得ることもできました。分析後半はまさにコロナ禍の影響でオンラインのみでのコミュニケーションになりましたが、アウトプットまでのプロセスはまさに、プロジェクトメンバー全員で働く喜びを分かち合うことができた貴重な経験だったと思います。

信時 裕