かなり間が空いてしまいましたが、4月下旬〜5月上旬の「大型連休」あるいは「ゴールデンウィーク」など呼ばれる、国内外への旅行・レジャーに最適な休暇期間にした私的旅行記です。

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毎年「大型連休」あるいは「ゴールデンウィーク」など呼ばれる期間は、日本のみならず世界各国・地域から“武道家”と呼ばれる人々がある街に集う時期でもあります。それは何処か?

京都市です。
世界的な観光都市である、京都市です。

毎年4月下旬〜5月上旬、京都には国内外から多くの観光客が来訪しているだけでなく、様々な団体・流派に所属する武道家達が大会・審査会のために参集しているのです。ご存知でした?

その中のひとつ:平安神宮の北西、京都市武道センター敷地内にある国の重要文化財であり日本最古の武道場である旧武徳殿で開催される大会が、全日本剣道連盟が主催する「全日本剣道演武大会」です。
「全日本剣道演武大会」は、1895(明治28)年10月に大日本武徳会本部が主催して始まり、1899(明治32)年の武徳殿竣工後は毎年5月上旬に開催されてきた「武徳祭大演武会」を起源とする行事です。第二次世界大戦による休止期間を経て、1953(昭和28)年5月に全日本剣道連盟が復興。現在は毎年5月2日より4日間にわたり各種の形(古武道)・なぎなた・杖道・居合道の演武と剣道個人試合が行われる、年に一度の修練成果を披露する大会として続いています。
2019年の今年度は通算第115回大会ですから、「大型連休」あるいは「ゴールデンウィーク」など呼ばれる休暇期間が制定されるより前から続く、100年以上の歳月を重ねてきた行事であるのです。ご存知でした?

…という話を何故、マーケティングリサーチ会社のリサーチャーである私がかくも仰々しくつらつらと書いているのかといえば、それは私がこの「全日本剣道演武大会」にいち演武者として参加しているから。
以下、私が「会社員」ではなく「武道稽古者」として、「出張」ではなく「遠征」のために京都市へ行った道中記です。
観光らしい事は一切していません。それでも面白かった・愉しかったと思う滞在をできてしまうのが、京都という街の懐深さ。何年も何度も訪れても、知り尽くすことができない街。

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5月1日(曇り)

いつもの年なら連休の間(はざま)の日ですが、今年は特別。「天皇の即位の日及び即位礼正殿の儀の行われる日」で祝日の扱い。令和元年の始まりの日です。
乗車日の1ヶ月前を1〜2週間ほど過ぎた頃に東海道新幹線乗車切符のネット予約をしようとしたら、「のぞみ」普通車指定席:新横浜〜京都は3人掛けシートの真ん中しか空いていない。なんとっ。
公益社団法人日本観光振興協会 観光予報プラットフォーム(https://kankouyohou.com/)の『観光予報』によると、2019年GW前半(4月27〜30日)の京都は「空いている・混雑度50%未満」でGW後半(5月1〜4日)になると「混雑・混雑度60〜85%未満」。例年よりも混雑度は“低い”というのが予報だった。今年の大型連休は10連休と長期間であることから、旅行者が全国に分散して京都は空くんだそう…それって、本当?では、「のぞみ」に乗って“Go West”する旅行者達の目的地は何処なんだろう?
一方、我々の目的地は10連休であろうとなかろうと、京都です。平日であろうと休日であろうと、関係無し。

一張羅ゆえいつもよりぶ厚くかさばる道着・袴が2人分詰まったスーツケースを転がしながら、長かったり硬かったりする得物(杖と木刀と袋竹刀と鎖鎌)が2人分入った長い袋を背負いながらの移動は、すれ違う人々とぶつからないか、隣り合う人々に当たらないか、気を遣う。この時は「ひかり」であれば2人掛けシートを選ぶことができたので、そちらでチケット購入。乗車時間が30分くらい長くなるけれど、車中で昼寝できる時間が長くなったと思えるから気にしない。実際、よく寝た。
(一人旅だったら寝過ごしていたかもしれない)

そうして、眠い目をこすりながら京都駅新幹線ホームから下りエスカレータに乗ったら眼下の光景に驚愕。改札内コンコースは、新幹線から降りてきた旅行客・新幹線へ乗り込もうとする旅行客でごった返していた。これが「混雑度60〜85%未満」であるなら、「混雑度100%」って足の踏み場も無いという状態なのかもしれない…私は武道稽古を始めてから20年間ほぼ毎年、5月上旬に京都へ来ているけれど、これほどの混雑っぷりを見るのは初めて。

後日、京都市観光協会のサイト(https://www.kyokanko.or.jp/kaiin/)の京都市観光レポート『京都市観光協会データ月報/臨時(2019年GW)』を読んだら、10 連休中の京都市内34ホテルにおける客室稼働率は平均94.6%!特に4月28日〜5月3日の6日間は98%以上と“ほぼ満室”状態であったそうです。曰く、10連休になったことにより、ゴールデンウィーク期間全体に渡って国内旅行需要が高まり全期間満遍なく旅行者が来訪した…と、我々はその現象を目の当たりにしたのか。納得。

人混みを避けて、新幹線改札を出てすぐの八条口からタクシーに乗ろうとしたら、間違えて隣の“外国人向けタクシー専用タクシー乗り場”というポールに並んでいた。そこは、京都駅の北側:烏丸口と南側:八条口の2ヶ所に乗り場がある『Foreign Friendly Taxi』(https://kyoto.travel/files/ff-taxi.pdf)なる、国土交通省・京都市・タクシー各社が連携し2016年3月にスタートした、主に訪日外国人を対象としたタクシーサービスだった。外国語研修・接遇研修を受けた認定ドライバーが運転するワゴン・ユニバーサルデザインカーで、大きなスーツケースを複数積めてクレジットカードや交通系ICカードでの支払いが可能…って、京都市外在住日本人である我々も利用したくなるサービスであります。もちろん、大型荷物・多荷物・車椅子・ベビーカー・妊婦さん・etc、車高が低い小型タクシーでは荷物の積み下ろしや乗り降りに不自由を感じる人は国籍・居住地を問わず利用可能。

旅行者らしい好奇心から乗ってみたかったのだけれど、行列はなかなか進まない。“言葉の壁”は無い我々は普通のタクシーを利用したほうが混雑緩和にも貢献できて良かろうと、乗り場を移動。あっさり中型タクシーに乗れたのだけれど、目的地のホテルの名前と住所を告げると、運転手さんは「わからない」と言う。通りや辻の名前で伝えないと「わからない」って、イメージ通りな京都のタクシードライバーだった。鴨川の東、川端通を上がって二条通沿いにあるとは言えるのだが、「イオン手前の角で停めて」と言ってもイオン東山二条店はその界隈ではランドマークではないらしく伝わらない。あらら…仕方が無いので、手の内にあるiPhoneに表示されたGoogle Map を眺めながら、ホテル近くの信号が画面に現れたところで「次の信号手前で停めてください」とナビゲーション。自分、地図を読める女で良かった。

かくして、乗車直後はぎこちないやりとりで始まったけれど、無事に到着。


今年の逗留先は、Google Mapで京都武道センターから徒歩圏内と決めて検索してみつけたゲストハウス。荷物に武具があるので他の旅行者と相部屋となるドミトリー滞在は無理だが、此方は個室+バストイレ共用というスタイルだから大丈夫。
エントランスフロアが共用キッチン・ラウンジで、壁面は京都らしい風景・事物を描いた大きな モザイクタイル画。おそらく、タイル会社のオフィスをゲストハウスにリノベーションしたものと思われる…建物内あちこちが綺麗な配色のタイル使いで彩られていた。
キッチンの黒板には多言語な板書がびっちり。日本人国内旅行者よりも訪日外国人旅行者の利用が多いらしい。実際、滞在中にキッチンで遭遇して簡単な挨拶を交わした方々が同行者と話していた言語は、英語・ドイツ語・フランス語・etc. “外国人旅行者に人気の観光都市、京都”というイメージがぴったりとはまる逗留先でありました。

さて、毎年訪れているから今さら 観光らしい事 には興味は無い。しかし、ところどころで“京都に来た”という気分に浸りたいというのが旅行者の性(さが)。
ただし、三条〜四条あたりの繁華街は4月下旬から毎日が祇園祭みたいな賑わいであることはSNSの電子の噂で聞いていたし、先程タクシーで移動中に南座の周りの通りを埋め尽くす行楽客の人波を見てしまったし、そのような混雑っぷりの中に分け入っていくのは憚られる。
従って、予定を立てられぬまま、行き当たりばったりにゲストハウスの周辺:旅行ガイドブックやスマホを片手に歩く人は皆無な二条通界隈をうろうろ。

いかにも“京都っぽい”町家の趣の店構えが気になり、昨夜は徹夜で荷造りしたから眠いしコーヒーを飲みたいから丁度良い、えいやっと入ったカフェは、ただの喫茶店ではなくって、アシェットデセール専門店。供せられた皿の上に並ぶ甘い物は、メニューに書かれた素材の表記からの想像を遥かに上回るゲシュタルト。
食べるのが勿体無い格好良さだが、頂きました。目に美しい物は舌に美味しかった。

旅行者の楽観主義。初めて歩く道は、視界に入ってくる事物がなんでも面白い。キョロキョロしながら歩いていたから気づいたのは、二条通から少し入った先の路地にせりだすように建っている周囲の景観変化に抗うかのような小さな漬物店。
子供の頃はお漬物なる食べ物にあまり馴染みがなかったので、いまだに味の良し悪しなど判らないのですが、このツクリモノではない歴史がありげな店構えはきっと良いお買い物ができるに違いない…と、見た目だけで私は判断した。自分用にも他人用にもいろいろお土産購入。
偶然行きついた見目麗しい店でお買い物をしたって事実だけで、満足度は高め。

5月1日は鴨川納涼床が開業する日ですが、二条通より北側は静か。先ほど、京都駅・祇園四条で見た過密な混雑っぷりとは別世界。

京都に来た時に私が密かに楽しみにしていることが「菜食」。
世界中から様々な信仰・価値観に基づく行動規範を持つ人々が集う京都では、ヴィーガン・ベジタリアン専門店や精進料理を供する店、あるいは菜食対応メニューが揃った飲食店が多い。普段、でき得る限り肉魚卵を食べない生活をしている身としては、食事の選択で“妥協”のストレスが無いことはたいへん嬉しい。

本日の晩ご飯は、インド料理好きな名古屋在住の友達が京都旅行の際に見つけて、「菜食メニューもあるよ」とわざわざメールで教えてくれた南インド料理店で。
ずっと前にいちどだけ旅したインドを再訪したくなるような味…つまり美味しかった。

1日目の締め括りは、三条大橋の近くにある昭和6年創業の町屋風の古い銭湯。
京都の街は、歩くと辻々にお風呂屋さんがある。京都府浴場組合『京都銭湯』(https://1010.kyoto/)で表示される京都市の銭湯は2019年春の時点で103件(市立浴場も含めたら、110件超)。
対して、私が住む横浜市で営業中の銭湯は現在60数件で(神奈川県講公衆浴場業生活衛生同業組合『Kanagawa Ofuroya Information』https://k-o-i.jp/)、銭湯が存在しない区もある。市の全域をまんべんなく公衆浴場が埋め尽くす京都は、銭湯の都でもあるらしい。

浴場の壁・床の面という面が、いろいろなタイル画・装飾でびっしり。当たり前だが、写真は無い。“インスタ映え”がおでかけプランの検討条件となる昨今らしいけれど、写真は撮れないけれど、お風呂好きの友人達にぜひ此処で浸ってほしいと勧めたい。


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5月2日(晴れ)

一夜明けて、これがメーンイベントです。
全日本剣道連盟主催「第115回 全日本剣道連盟演武大会」に出場、「各種の形」で一心流鎖鎌術、「杖道の部」で神道夢想流杖術を演武をさせていただきました。


日本最古の武道場での演武大会はどのようなものか、写真をお見せしたい衝動はあれど、できません。今年度から「会場内での写真・動画の撮影及び音声の録音については、営利目的又は不特定多数の者に公開若しくは頒布する目的(個人利用目的でのビデオ撮影等は除く)で、これを行うことは禁止」となったため。

肖像権など支障が無い、風景の写真だけ載せておきます。
伝わるでしょうか?

鎖鎌術・杖術とも、自分達の出番は一瞬です。演武場へ入場して5本の型を演武して退場するまでの時間は、3分間くらい。
しかし、その一瞬がたいへん濃密で充実した時間なのです。此処での演武は稽古1年分に相当すると思う…と、つまり、昨年から今日まで1年間の稽古プラス今日の演武とで、2年間の稽古経験値が上がったということ。もっと鍛錬・稽古しようという新たなモチベーションも高まるのでした。

各流派・各地域の先生達の演武を拝見し、自分達の演武を見てくださった立会の先生から講評を頂戴し、日本のみならず世界中から集まった先生方や先輩達やお仲間達とご挨拶したり近況を報告し合ったりして、旅のメーンイベントは終了。

この日の自分へのお土産は、演武会参加記念の品々:毎年絵柄が変わる参加賞の手拭い・見事な筆耕の演武者掲示・大会中敷地内で販売される公式演武写真(←この写りが悪いと落ち込む)。これが毎年のお約束。

演武大会の終了後は、これも毎年の恒例行事。京都市在住のピアニストである大前チズルさん(https://ameblo.jp/chizuru-piano/)とお夕食。

出身地も世代も生育歴も異なるチズルさんと知り合ったきっかけは、趣味の写真撮影。我々夫婦が毎年5月に京都遠征することから毎年会うのがお約束となり、気づけばもう10年超のお付き合い。彼女は京都に棲む音楽家らしい尖ったアンテナを持っていて、私の情報収集力では辿り着けないであろう洒落た場所へ毎年連れて行ってくださる。
今回連れて行ってくれたのは、京都御所近くの深い狭い路地の先にある、家庭料理店。坪庭がたいへん「京都」っぽい。


料理を頂きながら思ったのは、隣や背後から聞こえてくるお客さん達の会話がたいへん面白い。別に聞き耳立てていた訳ではないのだけれど、展覧会のオープニングパーティってこんな感じだろうなと思うような言葉がぽんぽん飛び交っていた(←そういう経験が少ないので、想像です)。後で知ったのだけれど、此処は京都に在住するor来訪する芸術家・文化人の溜まり場だった料理店を引き継いだ場所…得心しました。

カウンター席だったので、お料理はいずれもスポットライトを浴びながら舞台に現れる役者のように供せられて、一皿一皿が凛々しかった。


お店のスタッフ皆さんに見送られて、たいへん気持ち良く辞去。

そしてもう1軒、思いつきで立ち寄ったのは、鴨川のほとりにあるザ・リッツ・カールトン京都のバー。二条通から覗いたら、エントランスに向かう水盤上のアプローチの先に見える青紅葉が綺麗だったから、新緑鑑賞なんて風流ぶった遊びも良いんじゃないか。ほら、旅行中は非日常ですから。

バーのスタッフに「お庭を見たい」と話したら窓際のソファに案内してくれたので、ついでに豪壮な庭園について質問をしたら、かつて此処にあったホテルフジタ京都の灯篭や庭石を引き継いでいるとの回答がすぐに返ってきた。お見事。

京都について“古いものと新しいものとが融合している”とか、“古い構造物を活かして新しい価値を生み出す文化がある”といった説明を読むことがしばしばあるが、このホテルもそういう場所だった。

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5月3日(曇り)

朝から午後まで京都武道センターで行事見学の後、夕方の新幹線で横浜へ帰りました。
昨日の演武会に参加した稽古仲間の中には、今日は京都市内の見所を巡る人や、奈良へ足を伸ばして名刹古刹を訪ねる人などいましたが、予め計画を立てていなかった私達にはいきなり「行こう」と思いつく場所は無い。京都駅に着いたら四方八方が旅行客・行楽客で溢れていたので、きっと歩いて行ける場所は何処も混んでいるだろうし…と考えて、最短時間で乗れる新幹線の切符を選んで離京。

京都駅新幹線ホームの広告看板は“日本風”な意匠が多い。今まであまり意識していなかったが、外国人観光客向けなのか完全に英語表記のものがある。


ところで、『TORAYA』=『とらや』は“東京赤坂に本店がある羊羹の老舗 ”と思われがちだが、室町時代後期に京都一条で創業した和菓子店である。ご存知でした?

そんなこんな、とりとめもなく毎年恒例の京都遠征はお終い。
来年:2020年の4月下旬〜5月上旬は飛び石連休に戻るようなので、例年並みの混雑度となって、新幹線指定席の予約・宿泊先の予約が今年よりも容易にできることを今から祈っています。

石田ゆき子