5月28日、日本マーケティング・リサーチ協会主催の「JMRAアニュアルカンファレンス 2019」に参加をしてきました。 当カンファレンスでは、学生・若手リサーチャー向けセッション、ビッグデータを利用した新しいリサーチに関する講演、リサーチの海外先進事例講演など、多様な講演を拝聴することができました。 本記事では、株式会社ZOZO執行役員の田端信太郎氏による「『マーケティング・リサーチ』をマーケティングするには!?」と題した基調講演を取り上げます。田端氏はマーケティング・リサーチ業界については門外漢であると前置きをしつつ、近年新たに起こりつつあるマーケティング・リサーチ(以下、MR)の変化について、第三者から見た考察を述べていました。

生産性向上を支援するMR会社が、紺屋の白袴となっていないか

田端氏は大きく分けて二つのテーマについて語っていました。一つは「MRの各企業は、自らの業界に対するMRが足りていないのではないか。紺屋の白袴となっているのではないか」というものでした。 筆者は今年4月からアンド・ディに入った新人エンジニアであり、他のMR会社、他の業界がどのような状況にあり、弊社がどのような立ち位置にあるのか、まだ理解が足りていません。しかし、アンド・ディで働き始めて一つ分かったことがあります。それは、弊社は先進のツールを積極的に導入し、可能な限り効率的な作業環境となるように整備を進めているということです。 コミュニケーションツールとしてSlackやTrello、開発ツールとしてGitHubやDocker、CicleCIなどを利用し、クラウドリソース/サービスの活用も積極的に行われています。筆者はこのような環境の中で、自然言語処理を適用した回答の自動分類スクリプトの開発などに従事させていただいています。 MR会社の存在意義は、リサーチを通じてクライアントの組織の意思決定を支援すること、知的生産性を向上させることにあります。「知的生産の効率化の支援を目的としている組織がその内部に非効率な部分を残していては、クライアントの求める最適なアウトプットを提供できるはずがない」と弊社は考えており、調査・分析業務と並行して社内業務の効率化を進めています。

マーケティング・リサーチの新たな変化

もう一つのテーマは「MRの新たな変化」についてでした。そもそも顧客がなぜMRを発注するのか。一つは新規プロジェクトを始めるにあたり失敗のリスクを低減させるためです。MRをリスク低減のための手段として捉えたときに、新たな競合となりつつあるものとして二つを挙げていました。 一つ目は「クラウドファンディング」です。一例として、純チタン製カトラリー「Ensō」を新規開発するためのクラウドファンディング(以下、クラファン)を挙げていました。目標額20万円に対して、6月6日現在で約430万円が集まっています。この結果は、十分な資金をもって開発に取り掛かることができるということとともに、少なくとも430万円の市場需要があるということが明確に分かります。 大手クラファンサイトを訪ねると、スタートアップ企業だけでなく、大企業が新規事業立ち上げのために利用していることが見て取れます。中には、その企業規模であれば容易に準備ができそうな金額を目標額に設定しているケースがあります。これは、クラファンを行う第一の目的を、資金調達ではなく需要予測・調査としているためであると考えられます。 二つ目は「IoT」です。みながスマホを持つようになり、IoTによって家具と消費者が繋がるようになったことで、産業全体にリワイヤリングが起こっている。IoTで得られるデータは、言っていることではなく実際に行なっていることであるため、よほど信頼性が高い。IoTによるデータ収集が当たり前の時代になったとき、MRの存在意義は何なのか。以上のような問いを聴衆に投げかけていました。 対象の標本設計が可能であることや、求めている変数を得やすいことなど、MRに限られた利点もいくつか考えられます。しかしながら、クラファンやSNS、IoTの普及により、原始的なMR以外の調査手段が増えていることも事実です。また、別の講演では若年層のアンケートを回収することが年々困難になってきているという話もありました。筆者が本カンファレンス全体を通して感じたことは、MR業界全体が過渡期にあり、多くのMR会社が喫緊かつ共通の課題に直面しているということです。 悲観的な結びとなりましたが、「第三者の主張を受け止め、自らの業界を客観的に理解しようと努めること」もまた、MR会社に必要なマーケティングの一つと言えるのではないでしょうか。田端氏の考察も、筆者の新人なりの見解も、一つの意見に過ぎません。本記事を機に、あなた自身のMR業界に対する見解を言語化してみてはいかがでしょうか。