もう10年以上も前になりますが、「柔軟剤の香りについて」のグループインタビューを、北海道で実施したことがあります。

柔軟剤=香りを楽しむもの?

北海道では冬のあいだ洗濯物を室内干しにせざるを得ない天候の日が多く、市場の中でも特に柔軟剤の香りが重視されているエリアとのことで、使用頻度の高い代表的な市場として「柔軟剤(の香り)にはどんな価値があって、どんな楽しみ方があるのか」をインタビューで探るという企画です。 実際にお話をうかがってみると、インタビューの参加者それぞれに柔軟剤の香りへのこだわりがあり、自分の好きな香りが「洗濯物が乾くまで楽しめる」ことや、「乾いた後にも残る」ことが、ともに重要な条件として上がっていました。好きな香りのタイプは様々ですが、基本的には「香りが強く残るもの」が人気という印象をうけたことを覚えています。

「無香料柔軟剤 」発売を巡るさまざまな意見の顕在化

長らく“香りのよさ”を訴求する柔軟剤が発売されてきましたが、2019年1月に、花王から無香料の柔軟剤が発売されました(花王:ニュースリリース)。 SNSの一部で話題になったので、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、花王柔軟剤としては初めての無香料タイプなのだそうです。自分のTwitterのフォロワーさんたちの間でも、もともと「柔軟剤の香りは控えめな方が良い、むしろない方が良い」という意見が多かったこともあって、商品は好評でした。
仕上げに柔軟剤を使うけれども、香りが強すぎるのを残念に思っていた方が特に無香料の柔軟剤発売に対して好反応したわけですが、 無香料派からは「だったら洗剤も無香料がいい」という意見も出るなど、日常での関わりが密接なだけあって、自分のタイムラインの中では、かなり盛り上がった話題のひとつになりました。
その流れから、「自分の考える最高の洗濯の工程と仕上げについて」という話題に移ります。 いろいろ会話しているうちに「そもそも柔軟剤を使わない」人が一定数いることがわかりました(実は私もその一派)。柔軟剤を使用すると吸水性が悪くなる気がするなど、機能面でのネガティブイメージがあるケース。また、「香りは好きだけど、柔軟剤を使わないほうが洗い立てのパリっとした風合いを楽しめる」といった”柔軟剤を使用しない”ことへのポジティブな理由があるケースなど、聞いてみると理由はさまざまあります。 一方で、「柔軟剤を使った仕上げ=(家族への)思いやり」的な表現のプロモーションが多い中では、「不使用=手抜きっぽいイメージ」につながりやすく、意見として顕在化しづらい面もあるように感じます。

“思い込み”を払拭するツールとしてのSNS

お客様からの説明や、実際にお話をうかがった様子などで、柔軟剤の受容性が高いということが“事実”として刷り込まれていましたが、当時も「香りは控えめがよい」「柔軟剤は使いたくない」と考える人もきっといたでしょう。自分も当時から柔軟剤を使っていなかったはずなのに、そこにあまり疑問を持たなかったというのは、我ながら不思議に思います。
目の前にクライアントや商品がある状況でマーケティングを考えるとき、その商品を消費することがごく当然のように考えてしまいがちですが、一個人として消費者の立場からみてみると、「意外とそうでもないな」と思うことは少なからずあります。自分にとってのTwitterなどのSNSは、“マス”な意見を把握するツールというよりも、自分も含めた消費者の素朴でフラットな意見を振り返ることのできる貴重な場だということを、改めて感じました。 こうして得たインサイトを意識し、思い込みから離れて本当の顧客目線に立つことによって、意外なヒット商品につながる“芽”を発見できるように思います。

臼井智亜希