今年の5月16日に発表となった「住宅幸福論Epsode.2幸福の国の住まい方」の データ部分の分析担当者から、報告書内容のご紹介と関連した考察を、2回に分けてお届けします。
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調査結果(3):住生活満足度の分析

「街」の満足度と「家」の満足度、この2つを総合する形で「住生活」に関する満足度(0点から10点の11段階)を尋ねた。実際の質問文は、「現在の住生活(住居で営まれる暮らし)について、どの程度満足していますか」である。 結果、平均点でみると、デンマーク人は7.4点、日本人は6.8点。「家」の満足度、「街」の満足度よりも差が広がっている。デンマーク人のピークは9点、8点、日本人のピークは8点、7点である。[図表14]
それでは、住生活がどのような要素で構成され、どの程度の影響を受けているのだろうか。以下のようなモデルを想定した。
前章までみた「街」と「家」の満足度が住生活満足度を規定し、その「街」「家」については、それぞれ交流頻度や街・家との関わり方)が規定している、というものである。交流頻度や関わり方といった暮らしの“実態・アクティビティ”から、主観的評価(満足度)を説明しよういうのが、ポイントである。 なお、仮説立てたモデルの妥当性については、ある程度の妥当性を有していると判断された。(※詳細は報告書(https://www.homes.co.jp/souken/report/201905/)のP136~P137を参照。)
住生活満足度への影響度を把握するために、本件では重回帰分析を利用した。 分析においては、最初に「街」の満足度と「家」の満足度」のどちらが住生活満足度への影響度が大きいかを見た上で(Step1)、次いで家の満足度に対して家での暮らし方のどれが大きい影響を与えているかを見た(Step2)。

※「t値」は、重回帰分析で算出される、各要素の影響の大きさを示すデータ。「影響度(t値シェア)」は、各要素の影響度の比率を示すために、「t値」のシェアを算出したものである。

Step1の分析からは、「街」と「家」の満足度の影響度の大きさは、おおよそ3:7の割合である。「家」の満足度は、「街」の満足度よりも2倍以上の影響を及ぼしていることがわかる。[図表15] 次に、Step2の分析結果をみると、デンマークでは「家での交流頻度」(68%)、日本では「インテリアについての具体的行動」(77%)が、「家」の満足度に大きく影響を持つことが判明した。[図表16]
最後に住生活満足度と人生の幸福度の関係を見てみよう。人生の幸福度については、国連が発表する世界幸福度ランキングの元になっている調査と同じ尋ね方をしている(0点から10点の11段階)。[図表17]
幸福度の平均点は、デンマーク人が7.1点、日本人が6.4点。両国ともピークは8点にあるが、デンマーク人は10点満点、9点の割合が多い。 また、両国とも住生活満足度が高ければ、人生の幸福度が高いこともわかる。

調査結果のまとめ~デンマーク人の住まい方からのヒント~

調査結果をまとめると、以下のようになる。
デンマーク人にとって、家は何よりも交流の場であり、人を招いて交流することが日常的になっている。また、自分を取り戻す場所、自分を表現する場所でもあることから、理想の住まい像を明確に持ち、リフォーム・リノベーションやインテリアでの飾りつけを積極的に行っている。結果として、住まいが自分にとって居心地のよい空間となり、住生活の満足度や幸福感の高さに繋がっている。 一方、日本人はというと、家は自分自身がリラックスするためのプライベート空間という意識が強く、家に他人を招くことはあまり習慣になっていない。最新設備が整って快適に過ごせて、知名度のある住居であれば十分ということから、住まいに対する理想が明確ではなく、掃除以外に家を良くするという意欲に乏しい。結果として、デンマーク人に比べると、住まいに100%満足している訳ではなく、デンマーク人よりも住生活の満足度や幸福感が低い。
どうやら、住まいとの関係性(に関する意識)の違いが根底にあるようだ。デンマーク人の方が、住まいに対してより積極的に関わって、自分の理想に近づけようとしている。といっても、自宅に人を招くやインテリアの飾りつけを義務的に取り組んでいるわけでない。あくまでも楽しみながら、自分のスタイルで、ということだ。 日本人はどうすれば良いのだろうか。まずは、「住まいを自分が住むのにふさわしいと感じるような空間に仕立てる」という意識を持つことではないだろうか。インテリアにしても、最初は、ポスターを貼るといったことから始まるかもしれない。そこから、絵画や趣味のものを揃える、次いで壁紙を変えたり、家具などの配置やレイアウトを工夫したりといったことへと進むかもしれない。 と、ここまで書いたところで、筆者自身の家(マンションの部屋)はどうなのだろうかと思い返してみると、入居直後の数年間は、絵画を壁にかけたり、夫婦でお気に入りの家具を揃えたりしたが、その後は余り手をつけていないことに気づいた。最近は性能の落ちた冷蔵庫やエアコンを買い換えたくらいだ。 ちゃんと住まいに関われば、もっと居心地の良い空間となるのかもしれない、と自省した。

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